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2024.10.31 新卒研修振り返りレポート

ハイパフォーマー分析の示唆から設計した新卒エンジニア研修

by Ryo Murakami

#training #on-boarding

こんにちは。新卒部で若手社員の育成(研修、配属、オンボーディング支援など)を担当している村上です。

DeNA では、毎年行う新卒研修のコンセプトや内容について熟慮して設計・実施するようにしています。 本記事では、2024 年度においては、どんな観察や分析をふまえて、どう研修のコンセプトや内容をアップデートしたのかを紹介します。

このブログを読んでいただきたいのは以下の方々です。

  • 活躍できるエンジニアの要素を知りたい方
  • DeNA のエンジニア研修やその設計に興味をお持ちの方

少しでも皆さんの役に立てれば嬉しいです。

新卒育成と研修のゴール設定

現時点で、DeNA の新卒育成チームにおいては「変革を起こせる人材を増やす」というのを目標としております。

そして変革を起こせる人材になるための第一歩として、この新卒 1 年目のエンジニア研修においては、「 新卒社員が プロアクティブ行動 (後述)を現場で実践できるようになる」をゴールとしました。

以下、このようなゴールを設定するまでに至った検討過程をお伝えします。

変革を起こすハイパフォーマーとその障害

「変革を起こせる人材を増やす」という育成のゴールを据えつつも、昨年まで DeNA では、「どんな新卒が、どのような業務や環境を経て、どう成長し変革を起こすようになるのか」といった問いに対する明確な答えを持てていませんでした。またその逆に、どういったポイントが障害になりやすいのかもわかっていませんでした。

これを明確にすることができれば、育成施策や研修が設計しやすくなります。

そこで、「変革を起こせる人」と「成長するうえでの障害になりやすいポイント」の分析を試みました。

ハイパフォーマー分析

「変革を起こせる人」はハイパフォーマーととらえ、ハイパフォーマー分析を行いました。 一般的にハイパフォーマー分析には定量調査を含みますが、今回は定性調査を重視し、新卒で入社し活躍している社員 15 名程度とそのマネージャー 5 名程度にヒアリングを実施し、パターンの抽出を試みました。

質問項目は、新卒部に蓄積されたノウハウや、筆者の今までの育成に関わる経験をふまえて設計し、主に以下のようなことを聞きました。

  • 等級が伸び悩んだ/伸びたタイミングあるか。その原因は何か
  • 今の役割にはどういうきっかけでなったか
  • 成長を支援してくれるメンター/マネージャーはいたか

ハイパフォーマーになるまで

ハイパフォーマーになるまでの構造化を試みました

ハイパフォーマー分析を実施した結果、ハイパフォーマーは「ストレッチな打席に繰り返し立ち、取り組む仕事の規模を拡大し続ける。そしてそのステージに至るまでにプロアクティブな行動をしている」という仮説に至りました。

(その他の個人要因や環境要因も複数見つかりましたが、詳細は割愛します。)

成長における障害の分析

若手社員が直面する障害の調査も、20 件を超えるインタビューやパルスサーベイを用いて実施しました。その結果、以下のような事項が壁になりやすいことを発見しました。

  • 誰が何を知っているかわからず、適切な協力を求められない
  • 意思決定プロセスが不明で、提案があっても誰に伝えるべきかわからない
  • 上長との「良い 1on1」のイメージが持てない
    • 上長からのフィードバックを自ら求めに行く発想がなく、成長機会を逃してしまう
  • 自らの役割範囲を無意識に限定してしまう

これらの課題も、プロアクティブな行動で一定の解決が可能だという仮説を立て、プロアクティブ行動を意識した研修設計に繋がりました。

プロアクティブ行動とは

プロアクティブ行動とは、能動的な先を見越した行動を指します。組織行動学では、積極的な行動を通じて組織への適応を促すものとされます。

ある学術調査では、プロアクティブ行動は以下のように分類されます。( 尾形 2016 )

積極的問題解決

自ら事業、組織、プロダクト等の問題を発見し、解決に向けた行動をとること

  • 例:
    • 書籍からの知識を活用し、プロダクトやチームの課題を解決しようとする
    • コードベースを徹底的に読み、解決すべき課題を見つけて問題提起する

ネットワーク活用

自分一人だけでなく、周囲を巻き込みながら問題解決に取り組むこと

  • 例:
    • 最初は誰が何を知っているか不明な中、1on1 を頻繁に実施し、知識のある人を見つける
    • コードのアーキテクチャに問題を感じた際、仲間を増やし課題感を共有する

フィードバック探索

自らの成果や動きについて周囲にフィードバックを求めること

  • 例:
    • 1on1 で上長や他部署の先輩からフィードバックを求める
      • 「自分の動きの改善点を教えてください!」
      • 「自分の次のステップはなんでしょう?自分としては・・・」
    • プロダクトのドッグフーディングを部署で行い、意見を求める

研修のコンセプト

ここまでの検討をふまえ、研修のコンセプトを設計しました。

DeNA では研修運営メンバー内での認識すり合わせのために、 インセプションデッキ というフレームを使っています。 インセプションデッキでいうエレベーターピッチ形式でいうと、研修コンセプトは以下になります。

  • [DeNA の新卒エンジニア研修]という名のこのプロダクトは
  • [DeNA に入社した新卒エンジニア]向けに、
  • [学習し続けるための技術や学び合う場を提供]をする、
  • [ソフトウェアエンジニア向けのトレーニングプログラム]です。
  • これは[今までの当社の新卒研修]とは違って
  • [現場でプロアクティブ行動を実践するためのエッセンス]が備わっており
  • 対象顧客は[未来の変革のための素養を得]ることができます

研修の内容の大枠は 昨年度 から変えず、よりプロアクティブ行動が促進されるように内容をアップデートしました。

アップデート内容

初日にプロアクティブ行動について理解する

研修初日にまず研修のゴール設定を伝え、プロアクティブ行動に基づく行動指針を参加者に提示しました。

単に指針を示すだけでは理解は浅くなりがちです。そこで、現場社員にプロアクティブ行動の実践例を共有してもらい、具体的なイメージを持ってもらうようにしました。さらに、研修中に行えるプロアクティブ行動の例を以下のように具体的に示しました。

  • 例:
    • フィードバック探索
      • 日報を書いて、それをもとに講師やメンターからフィードバックを求める
    • ネットワーク活用
      • 学びを共有し、チームで情報を交換する
      • 自チームで解決できない問題を見つけた際、他のチームと情報交換を試みる

チームを積極的にシャッフルする

ネットワーク活用に慣れてもらうためにも、情報を共有しあえる関係値を素早く作る経験を積んでもらうことが有用と考えました。 そこでグループワークを伴う演習においては、チームを積極的にシャッフルしました。

プロアクティブ行動を意識したスクラム開発

研修終盤では、スクラムを組み、実際に社員に使われることを狙った社内ツールを開発しました。

ここで研修として意識したのは、「やがて現場で必要になる動き」をプロアクティブにやってもらうことです。 どういうことか、項目に分けて説明します。

既存ツールの改善を提案してもらう

新規開発だけでなく、既存ツールの改善も選択肢として提供しました。学生がする個人開発や、このような研修では 0→1 の開発を行うケースが多いですが、現場で求められることが多いのは「既存コードの読み込み → 改善提案」です。この活動を積極的問題解決行動の一環として捉えました。

スプリントレビューの重視

他にも、スクラム開発で重要な要素である、スプリントレビューを強調しました。

スプリントレビューは、どんな観点でレビューが欲しいかを考え、適切なステークホルダーを選びフィードバックを得るプロセスです。これはフィードバック探索そのものです。 油断すると、スプリントレビューは形骸化したり、スキップされてしまうのはスクラム開発あるあるだと思いますが、ここは大事にしてもらいました。

間接部門とのやりとり

プロダクトをリリースする際には開発以外の要素が絡みます。法務やセキュリティ部、IT 部門との連携が求められ、これがネットワーク活用となります。

新卒にとってこのような連携を最初からするのは難しいため、連携の重要性や手法を伝え、実際の間接部門とのコミュニケーションを体験してもらいました。

オンボーディングの仕方を学ぶ

オンボーディングは、受け入れ側と加入者側の共同作業と自分は考えています。

そこで、研修を終えて現場に送り出す直前に、オンボードする側の心構えや行動についてレクチャーしました。

ここでも、現場で行えるプロアクティブ行動について、以下のような項目を学んでもらいました。

ネットワーク活用については、周囲からの情報収集方法について伝えました。何でも聞ける人を見つけたり、関係者全員と 1 対 1 のコミュニケーションを取ることが有効です。また、キーパーソンを見つけ、組織の意思決定プロセスを理解することも大切です。

積極的問題解決については、どのように部署内で自ら問題を発見し、解決方法を提案するかを伝えました。部署内のドキュメントを読み込んだり、サービスを触ったりすることで、事業やプロダクトの情報を収集し、そこからチームが解決すべき課題や解決方法について仮説を持ってみることの重要性を強調しました。

フィードバック探索については、上長とのコミュニケーションを通して 1 年後に期待する成長について確認することや、アウトプットは進捗を開示しつつ細かく出せると、フィードバックが得やすいことを伝えました。

研修の成果

研修後、新卒参加者からは「プロアクティブさを心掛けたい」という前向きな声が聞かれました。また、多くのマネージャーからも「新卒がスムーズに現場に適応している」とのフィードバックがありました。

あるマネージャーは、「単なるタスクの遂行ではなく、プロジェクトの一員として課題を考え、チームと進めようとする姿勢が早期から見られる」と語っています。本人の資質もありますが、研修の効果は確かにあったと考えています。

具体的な開発プロダクトについては、 こちら をご覧ください。多くのステークホルダーが関わったプロダクトもあり、プロアクティブ行動が成果につながった様子が見て取れます。

まとめ

ハイパフォーマー分析の示唆を基にしたプロアクティブ行動重視の研修設計を行い、内容をアップデートしました。継続して新卒がより活躍するための要素にアンテナを張り、研修を改善していきたいと思います。

DeNA がいかに研修の設計を工夫しているか、伝わりましたら幸いです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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