AIシステム部の奥村(@pacocat)です。AIシステム部では、AI研究開発グループに所属しており、主に強化学習を用いたゲームAIの研究開発を行っています。 DeNAでは、様々な事業ドメインのデータを実際に使いながら機械学習を使ったサービス開発を推進しており、中でもゲームは豊富なデータ・シミュレーターがあるため、最先端のアルゴリズムを動かすための環境を自前で持っているのが特徴です。
全社的にも機械学習サービスのニーズが高まっている背景の中、7/5にGoogle様による機械学習系API勉強会が当社セミナールームにて開催されました。今回は、勉強会の内容をブログでレポートしたいと思います。
Googleといえば、先日開催されたGoogle I/O 2017でも"AI first"というメッセージが改めて強調されていましたが、実際にGoogle LensやGoogle Homeなど機械学習を活用したサービス・プロダクトが次々と登場し、注目が集まっています。
[最近話題になっていた"Democratizing AI(AIの民主化)“についてなど、AI関連の取り組みについては こちらのGoogle Cloud Next'17の動画 をご覧ください]
このセミナーでは、Google Cloud, ソリューションアーキテクトの中井悦司さんにお越しいただき、
- Googleでどのようにディープラーニングを活用しているのか
- Google Cloud Platform(GCP)が提供する機械学習サービス
- 機械学習のビジネス適用における考え方
といったテーマについてお話いただきました。
昨今「人工知能」を利用したビジネス期待が急激に高まっていますが、中井さんはそうした期待値と実際の機械学習ソリューション開発のギャップを適切に埋めるため、機械学習の啓蒙やGCPを使った技術支援全般を行っています。
※以下、主にディープラーニングに関連した学習技術を含め「機械学習」という用語を使いますが、「機械学習」と「ディープラーニング」の区別が必要な場合は明示的に「ディープラーニング」と記載します。
Googleでなぜ機械学習を活用するか
そもそも、Googleではどのように機械学習が取り入れられているのでしょうか。 「1クリックで世界の情報へアクセス可能にする」という企業ミッションを耳にすることもありましたが、モバイル市場の拡大に伴い、情報へのアクセス手段もクリックに限らなくなってきました(※参考: Searching without a query )。
そうした背景のもと、音声や画像入力に対応するため、サービスを支える機械学習技術が強くなっていったのは必然的な変化だったのでしょう。実際、Googleでは様々な機械学習(特にディープラーニングを使った)技術が開発されています。セミナーでは、そうした技術の中でもホットなものを紹介していただきました。
Wavenet(DeepMind社による音声合成技術)
Wavenetは、ニューラルネットワークを使って音声のデジタルデータを直接出力するモデルです。従来の、音素に分解してつなぎ合わせるパラメトリックな手法に比べて音声生成精度が飛躍的に向上しました。いずれは、人間の発話と区別がつかなくなってくるようになるかもしれません。 また、人間の音声に限らず、楽器の音を集めてトレーニングすることで、自動作曲が出来ることも話題になりました。
Gmail Smart Reply
自然言語処理の分野でも新しいサービスが提供されています。現在は英語モードのGmailのみが対象となっていますが、スマホでGmailを開くとメールの文脈を理解して、返答文の候補を生成してくれるサービスです。ここにも文脈理解のためのディープラーニング技術が活用されています。
※現在はモバイルGmailアプリからの返信の20%程度で、この機能が利用されているそうです。
データセンターの冷却効率改善(DeepMind社によるソリューション)
Google社内向けのソリューションも開発されています。DeepMind社は昨年、ディープラーニングと強化学習を組み合わせた技術でデータセンターの電力消費効率を最大40%削減することに成功しました。(※参考:
DeepMind AI reduces energy used for cooling Google data centers by 40%
)
※この事例における技術の詳細は公開されていませんが、
こちら
に中井さんによる機械学習を使ったエネルギー効率予測についての解説があります。
他にも、Google Photosの一般物体画像認識技術など、様々な機械学習サービスが生み出されており、Google社内では機械学習のバックグラウンドを持っていないサービスエンジニアも社内トレーニングコースなどを活用して、機械学習モデルを使いこなしているそうです。
GCPが提供する機械学習サービス
さて、Googleでは一般ユーザーがこうした機械学習技術を活用できるためのサービスを提供しており、目的別に以下の二つの方向性に大別されます。
- 学習済みモデルのAPIサービスを使う
⇒ ディープラーニング技術を今すぐに活用してみたい人向け - TensorFlowやCloud Machine Learning Engineのような環境を使って開発を行う
⇒ 独自モデルを作りたい人向け
①学習済みモデルのAPIサービスを使う
Cloud Vision API
Cloud Vison APIは、画像を渡すことで様々なラベル情報を取得することが出来ます。 上の例では、顔の検出だけでなく、顔が向いている方向・感情分析の結果が返ってくるAPIとなっています。
Cloud Natural Language API
Cloud Natural Language APIは、自然言語を分析するサービスです。文章の感情分析を行うことも可能で、お問い合わせメールの自動分類でカスタマーサポート業務を効率化するなど、導入事例が増えてきているそうです。
Cloud Video Intelligence API(β版)
現在はβ版が提供されていますが、Cloud Video Intelligence APIは、動画解析・検索が出来るサービスです。
動画のフレームを解析し、場面の切れ目を検知したり、場面ごとに何が映っているかを検出することが可能です。
※上の例では、“Elephant”, “Elephants”, “Animal”, “African elephant"とったラベルが検出されています。
他にも様々なAPIが公開され、導入事例も増えてきているそうなので、気になる方は こちら をご覧ください。
②独自にモデルを1から作成する
上述のAPIは、既に学習が済んでいるモデルをそのまま使うパターンになりますが、自社のデータを使って独自にモデルを開発したい場合もあります。その場合は、TensorFlowのような機械学習フレームワークとCloud Machine Learning Engineのような(TensorFlowのGPU・分散学習機能に対応している)計算リソースを利用する方法があります。
③学習済みの公開モデルを利用して独自モデルを作成する
①と②を折衷したパターンです。独自モデルを作る場合、既存で提供されているAPIレベルのものを1から作るのは大変です。そこで、公開されているフレームワークや学習済みデータを活用することで独自モデルを作成する方法もあります。これは転移学習と呼ばれている手法で、既に学習されたネットワークを独自にチューニング・カスタマイズすることで、1から学習をするよりも効率的に開発が行えるメリットがあります。 セミナーでは、 TensorFlow Object Detection API を使った簡単なアプリのデモが行われていました。(※デモアプリの作成方法は、 こちらの記事 で公開されています。)
機械学習のビジネス適用における考え方
セミナーの後半では、機械学習を実ビジネスに適用する際、どのような点に気をつけないといけないか、リアルなプロジェクト視点で講演を行っていただきました。
まず、ディープラーニングは非構造化データ(画像・動画・音声・自然言語)に高い性能を発揮する特性がある一方で、適応領域はまだ限定的です。データが不十分だったり、まだ実証されていない事を実現する場合のハードルは高いと考えたほうがいいという話がありました。 ディープラーニングはあくまでツールの一つでしかなく、それだけで凄いサービスが作れるかというとそうではありません。あくまでビジネスの中でディープラーニングが上手くハマるところを見つけていく、という関わり方が大事という話が印象的でした。
続いて、(ディープラーニング以外の)従来の機械学習をサービスに導入する際には、データアナリストによるデータとビジネスに対する知見が必要、というポイントが紹介されました。従来の一般的な機械学習では、構造化データによる予測処理がサービス適用の中心となります。そうした予測は、一般的な統計分析(いわゆるBI)が出発点になるため、あらかじめデータを整備しサービス分析が出来ていることが前提になる、というニュアンスです。
ここで、データ分析に対する考え方を整理しましょう。データ分析のプロセスについて、次のような理解をされることがあるそうです(下図の矢印のサイクル)
- 手元にデータが存在しており、データアナリストはそこからインサイトを得るために様々な集計や機械学習モデルの実験を繰り返す
- そうして作られた機械学習モデルによって、未知のデータに対する予測が出来るようになる
- データ予測がビジネスに使えないか検討する
しかし、本来のゴールである「ビジネス判断」を考えると、このループを逆にたどる必要があります。
- まず、ビジネスゴールを明確にする(一番大事な出発点)
- ビジネスゴールを実現するために、何を予測すべきかを決める
- 予測に必要な機械学習モデルやデータを洗い出す
- そうしたデータを集め、分析するためにはどのような活動をしないといけないのか
当たり前じゃないかと思われる方がほとんどだと思いますが、改めて大事な視点だと感じました。
話はさらに機械学習エンジニアとビジネスのコミュニケーションにも踏み込んでいきました。 機械学習はやってみないとどれくらいの精度が出るか分からない、という不確実な要素が強い領域です。ただ、だからといって素直に「やってみないと分からない」とコミュニケーションするだけでは何も進められないのも現実です。
機械学習は実験的な要素を含んでいるんだとエンジニアとビジネスサイドで共通認識を持った上で、影響範囲を適切に見極めながら実際にサービスに機械学習を組み込んでみて、リアルに実験をしていくのが重要だというのが中井さんの主張です。そうして知見が溜まることで、機械学習をビジネスで使う勘所をサービスメンバー全体で持てるようになるのではないでしょうか。
まとめ
最新の機械学習系APIの紹介から、ビジネス適用まで、様々な観点から機械学習サービスについてのエッセンスをまとめていただきました。特に後半の機械学習サービス開発の注意点については、なかなかこうした形でまとめて聞く機会も少ないので、改めて機械学習を使ったサービスについて考えるきっかけになったのではないでしょうか。AIシステム部では、様々なAI案件でビジネスメンバーと一緒にサービスをデザインして組み立てていくことが多く、機械学習に対する共通認識や社内文化の作り方など、参考になる観点が多かったように思います。
今回カバーしきれなかった内容を扱った第二回も検討されているそうなので、楽しみです!
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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