はじめに
こんにちは、IT 本部エンジニアリング室組織デザイングループの渡邊です。
DeNA では AI オールインのスローガンのもと、全社的に AI を活用した生産性の向上に取り組んでいます。1
社内でも Claude Code の利用者は着実に増えており、その活用をさらに広げる一環として、Anthropic 社から講師をお招きした勉強会が開催されました。開発者だけでなく、ビジネス職のメンバーも数多く参加しました。
本記事では、登壇者から直接聞いた実践的な知見を中心に、勉強会のレポートをお届けします。
イベント概要
- 日時:2026/05/22 17:30 - 19:00
- 会場:オンライン
- 講師:Anthropic 社 エンジニア 2 名
- 参加者:500 名超(入りきらない参加者も出るほどの盛況)
今回の勉強会は、冒頭で Claude Code の概要が解説されたあと、質問主体の対話形式となり、社内から想定を超える数の質問が飛び交いました。
以降では、解説と質疑を通して語られた内容を、テーマごとに再構成して紹介します。
コンテキスト設計こそが要
今回のセッションで一貫して強調されていたのは、有限なコンテキストウィンドウをいかに有効活用するかという「コンテキスト設計」の重要性でした。登壇者はこれを、容量の限られた昔のゲーム機のメモリにたとえ、限られたリソースをどう使うかで Claude の挙動が大きく変わると説明していました。
「CLAUDE.md は短いほどいい」は誤解
開発の現場では「CLAUDE.md は分量が少ない方がいい」という意見を耳にすることがあります。しかし登壇者によれば、Anthropic 社内ではそうした風潮はまったくなく、社内の CLAUDE.md は 数千行規模 になることも珍しくないとのことでした。プロジェクトやリポジトリの構造、よく使うコマンド、ロードマップ的な情報まで、必要なことは細かく書き込まれています。
この背景にあったのが、出力精度はモデルの 知性とコンテキストの掛け算 で決まる、という考え方です。どれだけモデルが賢くても、ある程度の前提知識を与えなければ精度につながりません。同じ内容を人間に渡すときに 3〜4 行で十分なはずがない、という喩えは非常に納得感がありました。
構造化でコンテキストを節約する
とはいえ CLAUDE.md が長くなりすぎると、モデルの出力精度はむしろ落ちます。そこで重要になるのが、トップレベルの CLAUDE.md と各機能ごとの CLAUDE.md に分割する構造化(スコーピング)です。チームの流儀やパターンを優先的に記載し、必要なときに必要な情報だけを参照できるようにします。
加えて、/context で現在のコンテキストに何が入っているかを確認し、/compact で不要なコンテキストを圧縮する運用も繰り返し勧められていました。すべてを Claude に任せて打ち込むのではなく、いま何がコンテキストに載っていて、この先のタスクに本当に必要かを少し意識するだけで精度が変わる、という指摘が印象的でした。
Claude Code の活用は開発に閉じない
大きなメッセージとして語られたのは、Claude Code は コード生成だけのツールではない ということでした。コードベースの理解(ディスカバリー)、設計のシンキングパートナー、実装、デプロイ、そして運用(モニタリングやデバッグ、セキュリティチェック)まで、開発サイクル全体で活用されています。
さらに Anthropic 社内では、開発職以外のチームでも日常的に使われているそうです。勉強会では、次のような事例が紹介されました。
- あるバックオフィス系のチームでは、以前は複数人で約 1 週間かかっていた定型レポートの作成が、データソースを接続することで 1 人・約 1 時間に短縮された。
- あるビジネス職のチームでは、メールやチャットなどの情報を接続し、Claude Code を日々の業務のインターフェイスとして使っている。
- デザイン領域でもヘビーに使われており、その知見がプロダクトの進化にもつながっている。
登壇者によれば、こうした活用を支えているのが社内の共有カルチャーだそうです。自分が一度手作業でやったことは、他の人が自動化できるように土台を作る、というマインドが根付いており、Skills(再利用可能なプロンプト)や社内向けのプライベートマーケットプレイス(実体は GitHub リポジトリ)を通じて、組織全体に共有されているとのことでした。
Skills・サブエージェント・Agent Teams の使い分け
質疑で関心が高かったのが、Skills とサブエージェント(個別のタスクを担わせる補助的なエージェント)の使い分けでした。登壇者は両者を次のように整理していました。
- Skills は再利用可能なプロンプトで、ワンオフかつタスク指向の処理に使う。
- サブエージェントはモジュール化できる処理を切り出し、メインのコンテキストウィンドウを汚さないために使う。
興味深かったのは、Agent Teams(複数のエージェントでチームを組ませる実験的な機能)を使い始めて以降、単発のサブエージェントを手動で起動する使い方はあまりしなくなったという話です。いまは自然言語でモジュール化や委譲を指示し、タスクの複雑さに応じてチームを組ませるような使い方が模索されているとのことでした。
また、作った Skill が期待した場面で自動的に呼び出されないという悩みもよく聞かれます。これに対しては、description にどんな場面で使うかの具体例を書くと呼び出されやすくなる、というコツが共有されました。Claude は起動時に Skill の名前と description を読み込むため、ここを分かりやすく書くことが効くという説明でした。
セキュリティと運用で聞けた実情
全社で幅広い職種が使うなかで、セキュリティ制御をどう設計しているかという質問も出ました。権限管理やアクセス可能なネットワークドメインの制御、ツール呼び出しの禁止などは、組織で一元管理できる設定ファイル(settings.json)で行えるとのことでした。外部ツールと連携する仕組みである MCP を接続する場合も、内部のツール呼び出しを制限することで、実行できるアクションを明示的に絞れます。
触らせたくないパスやシークレット、API キーの扱いは、処理の前後に独自のチェックを差し込む Hooks で管理しているケースが多いそうです。外部由来のファイル処理や Web リサーチなど、不確実でリスクのある処理にはサンドボックスモードを使い分けます。社内では開発環境自体がコンテナー内で動いているため、二重に守られる場面もあるとのことでした。
内蔵のシステムプロンプトを全面的に置き換えたり、既定ツールをまるごと差し替えたりできるようにする予定はあるか、という質問もありました。これに対しては、セキュリティ上のリスクが大きいため慎重だという見方が示されました。Claude Code は単なる CLI に見えて内部はセキュリティを重視した実装になっており、何でも開放してしまうと悪用に特化した使い方を生みかねない、という説明が印象に残りました。
評価に使うモデルはどう選ぶか
成果物を別のモデルで評価する、いわゆる LLM-as-a-judge の文脈で、解像度の高いフィードバックを返してくれるモデルはどれかという質問も出ました。回答はケースバイケースで、まず Sonnet で試し、必要に応じて Opus に変えてみるのが基本だそうです。
技術的な補足として、Opus のような大きなモデルはアテンションヘッドが多く、同じ文章をさまざまな観点から捉える能力が高いため、ニュアンスを拾いやすいという話がありました。一方で、評価の精度はモデルだけでなくプロンプトとの掛け算で決まります。プロンプトを 3 パターン、モデルを 3 パターン用意し、3 × 3 の 9 通りを比較検証するアプローチが紹介されました。
印象に残ったこと
ここからは、登壇者の話を聞いて私自身が強く印象に残った点を 3 つ挙げます。
コンテキスト管理は「人への仕事の渡し方」に似ている
CLAUDE.md は短いほどいい、という前提が社内では共有されていないという話は、私にとってもっとも意外な気づきでした。知性とコンテキストの掛け算で精度が決まるという考え方は、人にタスクを依頼するときに前提や背景をどれだけ丁寧に渡すか、という話とよく似ています。短く渡せばいいわけではなく、必要な情報を構造化して渡すという原則は、AI に限らず日々の仕事にも当てはまると感じました。
開発職以外こそインパクトが大きい
Claude Code がコード生成だけのツールではなく、バックオフィスやビジネス職を含めて全社で当たり前に使われているという事実は、活用の幅広さを実感させるものでした。ターミナルに対する苦手意識から最初は敬遠していた人も、触ってみると問題なく使えるようになるという話もあり、導入のハードルは思っているより低いのだと感じました。
人間中心の設計思想
セッション全体を通じて、重要な判断は人に委ね、確認のための Human-in-the-loop を必ず挟むという思想が繰り返し語られていました。障害対応のデモでも、バグを直して終わりにせず、再発防止やポストモーテムまで回す運用が機能として根付いていることが紹介されました。AI に任せきりにするのではなく、人と協働する前提で設計されている点に、ツールとしての成熟を感じました。
まとめ
本記事では、Anthropic 社の講師をお招きした Claude Code 勉強会のレポートとして、現場での実践に根ざした知見を紹介しました。
とくに印象的だった学びを整理します。
- コンテキスト設計が出力精度を左右する。CLAUDE.md は短ければよいわけではなく、構造化して必要な情報を渡すことが重要である。
- Claude Code はコード生成だけのツールではなく、開発職以外も含めた全社の業務インターフェイスになり得る。
- 重要な判断は人に委ねる Human-in-the-loop を前提に、人と協働する設計思想が貫かれている。
昨今急激に変化している AI の領域において、最前線の方の話を直接聞けることは大きな学びになりました。本記事が、Claude Code の活用を検討されている方々の参考になれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
関連資料
- Claude Code overview
- Manage Claude’s memory(CLAUDE.md)
- Skills
- Hooks
- Subagents
- Model Context Protocol
脚注
-
DeNA ENGINEERING BLOG #AI では DeNA のエンジニアによる AI 活用の事例をご紹介しておりますので、ぜひご覧になってください。 ↩︎
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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