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2026.06.03 AIジャーニーの足跡

ターゲットユーザーの“意識のズレ”をどうAIに組み込むか?——「AIペルソナ」が開発メンバーの相談相手になる日を目指して

by Koki Satake

#ai #process-improvement #analysis #gemini

社内のリアルなAI活用事例を発信する連載企画「AIジャーニーの足跡」。今回は「AIペルソナ」をテーマに、顧客理解のプロフェッショナルである森本修さんにインタビューを行いました。主務としてゲームサービス事業本部開発運営統括部分析部インサイトアナリティクス第三グループ、兼務としてソリューション本部マーケティング統括部マーケティング部コンシューマーインサイトグループに所属されています。兼務側で「AIペルソナ」について研究を行いながら、主務であるゲーム事業に活かす動きをされています。このインタビューでは、ゲーム開発の意思決定を加速させる「AIペルソナ」の構築手法と、それがもたらすプロダクト開発の未来について迫ります。

── まずは、森本さんの自己紹介をお願いします。

森本: データサイエンティストとしてのログ分析と、マーケティングリサーチャーとしてのインタビューやアンケート調査を担当しています。共通しているのは、顧客の行動と意識の両面から「顧客理解」を深めることです。今回は、後者のリサーチデータを活用した取り組みである、「AIペルソナ」についてお話します。

── そもそも「ペルソナ」とは何でしょうか。

森本: マーケティングにおけるペルソナとは、ターゲットを代表する顧客像を一人の人間として具体的に記述したものです。チーム共通の顧客理解を作るために活用します。ターゲットを集団のまま扱おうとすると、集団内のバラツキのために開発メンバーによって想定する顧客像がずれてしまうことがあります。そのままだと出来上がったプロダクトやサービスにもちぐはぐな部分が残ってしまいます。また、単純な平均値で定義してしまうと実在感の無い顧客像になってしまい、これはこれで正しい顧客理解にはつながりにくいのです。これを防ぐのがマーケティングにおけるペルソナで、本当に存在するかのような実在感のある人物を設定します。

「対話できる同僚」を作る背景とは?

── なぜ今回、通常の開発プロセスに加えて「AIペルソナ」というアプローチを検討されたのでしょうか。

森本: ネット上のサービスやゲーム開発において、顧客理解は基本中の基本です。しかし特にゲームなどの世界では、何十万人ものお客さんがいても、普通に開発しているだけでは接点がありません。例えば、SNSなどの書き込みを参考にしようとしても、そこに書き込むのは熱量の高いヘビーユーザーに偏りがちです。彼らの声に単純に合わせて、企画や仕様を作ってしまうと、ライトユーザーがついていけなくなるリスクがあります。そこでヘビーユーザーのペルソナ、ライトユーザーのペルソナと複数のペルソナを作って、それぞれのペルソナに相談しながら開発や運営を進めます。

── そうした課題に対して、従来のペルソナは機能しなかったのでしょうか。

森本: 従来のペルソナは、アンケート結果の数表やグラフ、あるいはスライドにまとめられた静的な「ペルソナシート」でした。しかしこれらを作ったとしても、日常的な意思決定の場で意識し続けるのが難しいという長年の悩みがありました。レポートはどうしても「ただのマネキン」や「記号」に見えてしまいます。そこで、「生成AIにこのペルソナになりきってもらえば、開発現場にいるユーザーとして、ユーザー目線の会話ができる同僚になるのでは」と考えたのが始まりです。

「ペルソナ」特有の価値観を反映させる工夫

── 生成AIに「ペルソナ」として振る舞ってもらう上で、具体的にどのような工夫をされているのですか。

森本: 最も重要なのは、AIの内部知識だけに頼らないことです。単に「北米の33歳女性のペルソナとして振る舞って」とプロンプトで指示するだけのAIペルソナでは、LLMの特性上「一般論(平均的な回答)」に寄ってしまいます。私たちが知りたいのは、そのターゲット顧客特有の「一般常識とのズレ」や「偏り」の部分です。

── その「ズレ」をどのように改善させるのでしょうか。

森本: まず、レパートリーグリッド法などの古典的なマーケティング・リサーチ手法を応用して、インタビューやアンケートの実査データから顧客の潜在的な価値観を言語化します。そこから一般常識とのズレを抽出し、LLMが誤解なくターゲット人格として振る舞えるように書き換えて注入します。このプロンプト設計がプロセスの肝であり、一番の関門ですね。
加えて、カバーしたい領域を明確にすることも重要です。例えば、ゲームのシステムに関する価値観と、アートやデザインに関する価値観は別物です。アートの調査データだけを反映したペルソナにシステムの話を聞いても、一般的な答えしか返ってきません。そのため、事前にどの領域の価値観をカバーしたいのかを明確にし、AIに注入する前のリサーチ段階で幅広い情報を取得しておく必要があります。ターゲットが変われば、入れるデータも入れ替える必要があります。

── 具体的にどのような検証結果がでたのでしょうか。

森本: 実際に北米向けのゲーム開発で行った検証があります。現地の40代女性をターゲットにした際、日本の開発メンバーが良いと思うデザインと、現地の感覚にズレがないかを確かめるため、4つのデザイン案を用意しました。まず、Gemini や ChatGPT、Claude などのデフォルトのLLMに画像を見せて「どれが一番良いと思う?」と聞くと、どのモデルも一様に同じデザインが「一番いい」と答えるんです。一方で、現地で実際にアンケート調査を行ってみると、人気1位になったのは、LLMが選んだものとは異なる別のデザインでした。これがまさに、AIが一般論に寄ってしまう現象です。北米全体で見ればLLMが選んだデザインが人気なのかもしれませんが、私たちがターゲットとする特定のゲームプレイヤー層にとっては違ったわけです。

── 実際のリサーチデータを元にした場合では、どうなるのでしょう?

森本: ターゲット層の女性になりきってもらったところ、現地で実際に1位だったデザインをきちんと1位に挙げ、「その理由は〜〜だから」と提示してくれました。実際のアンケート結果と一致する順位を示し、それを具体的に言語化していました。
ちなみに、人間らしいロールプレイの再現性や、与えた価値観に対する追従性の高さにおいては、現時点では Gemini が非常に使いやすいと感じています。他のモデルは説明がどうしても丁寧なビジネス文書のようになってしまいがちですが、Gemini は不自然さのない口調を表現するのが上手です。ただし、特定のモデルに依存しないよう、プロンプト自体は移植可能な形で設計しています。

AIペルソナの今後の展望

── 一過性のリサーチレポートが、対話できる「動的なアセット」として身近になるのですね。

森本: はい。AIペルソナを構築できるのは、ベースとなる「リサーチデータが正確だから」に他なりません。AIはリサーチを代替してコストを削減するものではなく、リサーチの価値を開発現場に伝えるものです。
まだまだ、試行錯誤の部分が多いのですが、より信頼してもらえる仕組みを作りたいですね。

── 開発メンバーにとって、どのようなメリットが期待できるでしょうか。

森本: 企画初期の段階から、このAIペルソナを「相談できる同僚」として使ってほしいと思っています。仕様や方向性を決める際、細かい部分で開発メンバーが一人で何日も悩んでしまうことはよくあります。そうした課題はAIペルソナに投げかけ、「このターゲット層ならこう考える」と少し背中を押してもらえるだけで、自信を持って最短ルートで決定できるようになります。そんな意思決定のインフラを作っていきたいですね。

まとめ

今回は、ゲーム開発における顧客理解の新しいアプローチである「AIペルソナ」について、森本修さんにお話を伺いました。AIペルソナは、単なるAI導入ではなく、リサーチを通じて言語化されたターゲット顧客の価値観を、開発者が日常的に使えるツールとして現場に根付かせる試みです。開発メンバーが迷うことなく、ユーザーにむけた最善の判断を自信を持って下せるよう、この「同僚」をいかに組織に組み込むかが、今後のプロダクト開発の鍵になりそうです。

編集: 佐竹航希

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