こんにちは。DeNA の Kotani と Ishida です。私たちは Pococha のエンジニアとして、日々サービスの改善と新たな価値の提供に取り組んでいます。
今回は、先日の Pococha オフラインイベントで実施した「生成 AI を活用したイベント実況」の取り組みをご紹介します。
オフラインイベントと AI 実況機能の立ち上げ
Pococha では年に数回、リアル会場でライバーが競い合うオフラインイベントを開催しています。今回は、札幌で行われたオフラインイベントのパブリックビューイング会場で、新しい試みに挑みました。
通常、オフラインイベントではプロの実況者に出演を依頼しますが、今回は AI を活用した実況に挑戦しました。狙いは、AI がイベントの熱気をリアルタイムに捉え、ユニークな体験を届けられるかを検証することです。
さらに、開発期間はわずか 2 週間。パブリックビューイング会場向けの新たな盛り上げ施策として急遽決定されたため、スピード重視で機能を作り上げる必要がありました。
AI 実況機能のシステム構成
今回開発したAI実況は、Pocochaのイベント情報をリアルタイムにAIへ渡し、生成した実況テキストを音声で読み上げる仕組みになっています。
AIイベント実況機能のシステム構成図
実況生成システムで任意のタイミングでジョブを実行し、Pococha Server から最新のイベント情報を取得。Gemini 2.5 Pro(Vertex AI)で実況テキストを生成し、それを元に gpt-4o-mini-tts(Azure OpenAI Service)で音声に変換します。再生前に目視で品質チェックを行い、問題がなければ会場スピーカーから届ける仕組みとなっています。
AI 実況におけるコンテキストエンジニアリング
今回の開発でとくに重要だったのは、AI が「Pococha らしさ」を理解し、イベントの文脈に即した実況を行えるようにする「コンテキストエンジニアリング」です。LLM の力を最大化するには、技術的なパラメーター調整だけでなく、プロダクト固有の価値観やユーザー体験の文脈を AI に深く理解させることが鍵になります。
とくに強調したいのは、プロンプト設計の大部分を Biz(ビジネス)側のメンバーが主導した点です。一般的に、プロンプトエンジニアリングはエンジニアが担うものというイメージがあります。しかし Pococha の開発チームでは、Biz メンバー自身が AI の振る舞いを設計・評価できる内製の AI プレイグラウンドツール「PoCopilot」を活用しています。
PoCopilot は Biz メンバーがアイデアを即座に試し、多角的に比較・検証できる環境です。また、個人の試行錯誤をチームで共有・発展させる仕組みや、AI が Pococha 固有のナレッジや価値観を深く理解するための連携機能も備えています。これらにより、Biz メンバーはエンジニアを介さずに高速で PDCA を回し、プロンプトの約 9 割を自ら作成できました。その結果、エンジニアはシステム連携の実装に集中でき、Biz の専門性と AI 技術のスムーズな融合が実現しました。
私たちはプロダクトの特性やユーザーのニーズを最も深く理解している Biz 側の知見が、AI の振る舞いを決定づけるうえで不可欠であると考えています。「Pococha らしさ」や、ユーザーがどんな言葉や表現で盛り上がるかといった要素は、まさに Biz メンバーが得意とする領域です。
こうした文脈づけをいかに AI に深く理解させるかが、これからの AI 活用の腕の見せどころだと感じています。
2 週間の短期開発における工夫
「2 週間で AI 実況機能をイベントに導入する」。この挑戦的な目標を達成するために、いくつかの工夫を行いました。
まず、開発チームと Biz メンバーが並行して作業を進めました。前述のような AI プレイグラウンドツールにより、Biz メンバーがエンジニアを介さずにプロンプトの作成・調整を自走できたことがそれを可能にしました。また、Pococha では Cursor や Claude Code などの AI 開発支援ツールを積極的に活用しており、これらも短期間での実装を後押ししました。
これにより 2 週間という短期間で AI 実況機能を実現し、オフラインイベントでのユーザー体験向上に貢献できました。
おわりに
今回の成果は機能そのものだけでなく、「短期で AI 機能を立ち上げる共創プロセス」を得られた点にあります。Biz が文脈を設計し、エンジニアが実装と運用を整える。この役割分担により、限られた時間でも品質とスピードを両立できました。
核にあったのはコンテキストエンジニアリングです。誰に何をどのトーンで伝えるか、固有名詞や NG、評価観点を整理し、LLM に渡す情報を最小で十分な形に整えることで、生成の安定性が明確に向上しました。
今後も私たちは、AI 技術のさらなる可能性を探り、常にユーザーにとって最高の体験を追求していきます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
この記事をシェアしていただける方はこちらからお願いします。