はじめに
皆さんこんにちは。IT本部IT戦略部の岩崎と申します。
IT戦略部はDeNAグループ全体の社内IT環境の運用管理や各事業部にて使用するソフトウエア・ハードウェア環境の維持管理を行っています。
ミッションとして「QCDの鼎立(ていりつ)」を掲げ、社内ITについて高いクオリティ、低コスト、より早いデリバリーを最適なバランスで提供すべく日々活動しています。
この記事では2023年3月に開催したDeNA TechCon 2023にて好評を頂いた「より便利を届ける社内IT部門のチャレンジ」から、DeNAグループのIT資産管理システムをSaaSプラットフォームであるServiceNow上に構築した内容についてより詳細に記載します。
TechCon 2023の動画はYouTubeで配信していますので、ご興味ある方はぜひご覧ください。
「今より便利」をより速く届けるIT部門のチャレンジ(YouTubeへリンクします)
この記事の流れ
資産管理システムのリプレイスについて以下の章に分けて記載します。
- なぜ資産管理システムのリプレイスが必要になったか
- キーワードは「自動化」と「効率化」+「セルフサービス化」
- プラットフォームとしてServiceNowを選定したポイント
- 新システム構築の流れ
- 開発体制
- 開発プロセス
- 新システムによる改善効果
- 次回予告
なぜ資産管理システムのリプレイスが必要になったか
DeNAグループでは約5,000台のPCと約600種類のソフトウェアを使用しています。これらIT資産は購入品・リース品・サブスクリプション契約と様々な調達形態を採用しています。
これら資産について、いま・どこで・だれが使用しているのか、契約状況や更新時期はいつであるかを正しく把握し、管理する必要があります。
DeNAはエンジニアが多い会社ですので、これまでは「内製システム」を開発し、運用を行っていました。ユーザーと開発者の距離が近く、同じゴールを見ながら開発できる環境であるため、完成度の高いシステムが運用されていました。
しかし、運用開始から年月が経過すると以下の課題が生じてきました。
- 契約形態や調達契約形態の複雑化
- これまでの「買い切り」から「リース」や「サブスクリプション」契約が増加し、管理すべき項目が増加した。
- オペレーションとシステム操作の乖離
- 状況変化によるオペレーションの変更にシステムが追随できず、「システム操作の手間」や「システム外作業」が発生している。
- 特にシステムで管理できない項目やフィルタできない項目を「エクセル台帳」で管理する運用が発生している。
- 改修リクエストとそれに対する工数の捻出の難しさ
- 内製のため、エンジニアは別案件の業務も持っています。
- ユーザーから寄せられる改修リクエストも増加する一方ですが、どうしても「社内資産管理システム」は他の業務と比較して優先度が下がってしまい、工数の捻出が難しい状況が発生している。
このような状況が顕在化し、ユーザー側も開発エンジニア側も共に苦しい状況に陥ってしまっていました。
キーワードは「自動化」と「効率化」+「セルフサービス化」
上記の状況を払拭すべく、資産管理システムのリプレイス計画が始まりました。
リプレイスにあたり特に重要とした点が以下の3点です。
- 自動化
- 担当者の作業を見直し、定型的な作業は自動化する
- 効率化
- システム外での作業を撤廃する
- 特に「エクセル台帳」は完全撤廃する
- 要確認/要作業件数を見える化する
- システム外での作業を撤廃する
- ユーザーによるセルフサービス化
- 担当者が画面構成やデータ出力の設定を変更できる
- 資産プロパティの追加・編集ができる
プラットフォームとしてServiceNowを選定したポイント
今回のリプレイスでServiceNowを選定したポイントは以下のとおりです。
-
拡張性が高い
- パッケージ既存構成の拡張が可能であり、要件に柔軟に対応できる
- カスタムテーブルを作成し、独自機能を追加できる
-
既存SaaSとの連携機能が使用できる
- Spork機能を使用し、特別な設定なしに既存SaaSとデータ連携ができる
-
柔軟な画面構成を設定できる
- フォームやリスト構成においてデータ条件やユーザー権限による画面の出し分けができる
- 画面構成をGUIで変更できる。(個人用設定も作成できる)
-
自動処理ワークフローが簡単に構築できる
- FlowDesigner機能を使用し、GUIベースでバッチ処理の作成ができる
- 複雑な処理や標準機能に含まれない処理もJavaScriptベースで簡単に実装できる。
新システム構築の流れ
計画は2021年末から開始し、以下のフェーズに分けて進捗させました。
フェーズを分けた理由としては「所管部門が異なる」こと、「ハードウェア管理機能は費用配賦機能やユーザー棚卸機能など機能要件が多い」ことから工数の少ないソフトウェア管理機能からリリースする計画としました。
また、フェーズ3以降は管理強化を目的とした機能であり、棚卸機能は2022年度末までに「未使用端末の回収強化」、2023年度からの費用配賦・子会社請求方法変更にあわせたリリース目標としました。
- フェーズ1:ソフトウェア資産管理
- 2022年3月のリリースを目指す
- フェーズ2:ハードウェア資産管理
- 2022年10月のリリースを目指す
- フェーズ3:ユーザーによる資産棚卸機能
- 2022年末のリリースを目指す
- フェーズ4:費用配賦・子会社請求の自動化
- 2023年3月末のリリースを目指す
開発体制
以下のメンバーで開発を実施しました。
- 開発及び全体統括:1名(筆者)
- マニュアル作成やユーザートレーニングなども実施
- 要件定義支援及び機能リクエスト、テスト:5人(資産管理担当者)
- 社内オンプレシステムとの連携:3人(連携機能の開発チームに依頼)
開発プロセス
使いやすく効率的なシステムの実現のため、「要件定義」と「設計」に7割程度の工数をかけました。
一方で開発やデータ移行は全体の2割以下、その他に業務マニュアル作成やトレーニングで1割程度といった工数割合です。
今回の開発で大切にした視点は以下の3点です。
- 現場のオペレーションを理解する
- 資産管理業務をシステムにあわせる
- プラットフォームの機能を最大限活かす(カスタマイズは最小限に)
以下でそれぞれの内容を見ていきましょう。
現場のオペレーションを理解する
要件定義にあたっては実際の管理業務をもとに「業務フロー図」を作成しました。
フロー図の作成には現場でのオペレーション見学や担当者へのヒアリングを通じて、現場の作業内容や現在の非効率や不便を認識することから始めました。予想通り、「特定の担当者しか存在を知らない作業」や「担当者によって手順がバラバラ(標準化されていない)」ものが散見されました。
フロー図の作成を通じて「全担当者がオペレーションの全体像を把握する」よい機会になったと感じています。
【青字が既存システム、赤字が新システムでのオペレーションを示しています】
新たなオペレーションを企画する
現場のオペレーションをもとにシステムの機能要件を作成すると同時に、「新システムでのオペレーション」を考えることにしました。
まずはじめに作成したフロー図をもとに現場担当者を交えたディスカッションを実施します。
「この作業は不要なのではないか?」、「ここはもっと注力したほうが良い」、「この作業が手間で毎月大変な思いをしている」など、担当者の生の声を聞きながら新オペレーション案を考えていきます。
上記のプロセスを大切にした理由は、これまでの「現場業務にあわせたシステムの開発」ではなく、「システムにあわせた効率的な新オペレーション」を実現するためです。
そのために現場で作業にあたる全員に「共通の課題認識」を持ってもらい、その上で「新オペレーション」の検討に進んでもらう必要があると考えました。
今回のシステム開発はSaaSプラットフォーム上で行います。ServiceNowプラットフォームには資産管理機能の一般的な機能はすでに備わっています。
この「一般的な機能」を「=世間一般で行われている標準的な管理」を実現するためのものと認識し、DeNAのオペレーションとの「ズレ」に着目しました。
この内容が次の視点に繋がります。
プラットフォームの機能を最大限活かす(カスタマイズは最小限に)
現場業務とシステム機能の「ズレ」を分析し、以下のグループごとに取るべき対応を変えています。
- DeNAグループ内での資産管理上必要なもの(=無くせないもの)
- 真に必要な部分をヒアリングし、カスタマイズを行う
- カスタマイズを行った例
- バーコードによる資産のチェックイン/チェックアウト処理
- リース会社との受領確認のため現物確認記録が必要
- PC返却時の郵送伝票情報記録
- リモートワークとなったことで「いつ・だれが・どの方法で返却したか」の記録が必要(オフィス勤務の時代は「持ち込み」であった)
- バーコードによる資産のチェックイン/チェックアウト処理
- これまでの経緯で続けているもの、旧システムの挙動によるもの(=無くせるもの)
- 新システムの機能にあわせたオペレーションに変更
【カスタマイズを最小限にするための業務見直し】
システムへのカスタマイズは構築時のみならず、改修やバージョンアップ時の動作検証など、後年に与える影響が少なくありません。
また、「世界中で導入されているSaaSが推奨するオペレーション」にあわせることで、「少ない検討工数でより良いオペレーションを実現」する効果が期待できると考えました。
新システムによる改善効果
新システムは2022年10月に稼働し、運用開始から半年を迎えました。
この半年で以下の改善効果が発揮されています。
- 資産管理オペレーションの効率化
- オペレーションはすべてシステム上で完結。
- 必要な台帳やリストをすべてServiceNow上で表現
- 「やることリスト」の自動生成による残タスクの見える化
- アラート発報による「イレギュラー」発生の検知
- オペレーションはすべてシステム上で完結。
- 自動化による工数削減
- 各種リストの自動取り込み
- 資産棚卸作業の自動化
- ITコスト配賦・子会社請求の1ボタン化
- ITコストの抑制
- ソフトウェア利用者の数量把握により「真に必要な」数量の調達を実現
- PC複数貸与者に対する「未使用端末」の返却勧奨により新規リース物件数を削減
次回予告
「資産管理オペレーションの効率化」と「自動化による工数削減」については記事が長くなるので次回以降に紹介します。
次回は「資産管理オペレーションの効率化」により、具体的な作業がどのように効率化されたか、効率化のための実装方式等について紹介します。
この記事の最後に
私の所属するテクニカルオペレーショングループでは新しい仲間を募集しています。
当グループでは、DeNAグループ全社IT環境の運用管理にとどまらず「業務改善や効率化・省力化」を目的とした様々な取り組みを行っています。
ご興味がある方はぜひ下記リンクから内容をご覧ください。
【社内システム】テクニカルオペレーション 〜社内システムの運用改善でグループ全社へ価値を届けるメンバー募集〜
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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